🗐 てがろぐ

ほぼ壁打ちXみたいな場所です

No.450

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「……おい、これはどういうことだ」
「どういうことって、何ですか?」
 長谷部は、相変わらずの宗三の部屋の惨状に思わず苦い顔をする。宗三はこてん、と首を傾げて、どうしてそんな反応されるのかがわからない、といった風に構えていた。
「お前、本当は部屋の片付けも何もかも自分でできるんだろう? なんでまた部屋が散らかりっぱなしなんだよ」
 そう、あの日。
 とうとうこいつの思惑通り手篭めにされてしまった日に、こいつ自身が言っていた。別にひとりで何もできないようなぼんくらな刀ではないと。
 なら、毎回顔をしかめるこの部屋の惨状も、実際のところわざとなのだろう。はあ、とため息が漏れる。意識せず、部屋を片付け始めようと体が動いてしまう。こいつの世話を焼くのは、何だかんだ嫌いではないので、それに強く不満を抱いていないというのもなんだか癪だった。
 慣れた手つきで、衣類をたたみ小物を整理し仕舞い込んでいく。一応宗三も手伝う気はあるのか、こちらにあれはどこにしまえばいいのかといちいちたずねながら手を動かす。ふたりで動いてしまえば、一振り分の部屋などすぐ片付いてしまった。
 いつものように茶を入れ茶菓子まで用意してから、はっと我に返るがもう遅い。結局いつもと変わりない動きになってしまった。
「ありがとうございます、きれいになりました」
 煎餅を頬張りながら、宗三はにっこり笑いかけてくる。その笑顔にうっかり流されそうになるが、いや、と思い直した。
「お前、ほんとは自分のこと自分でできるんだよな?もう俺に世話を焼かせる必要ないだろ。なのになんでいつもと変わらないんだ」
「確かにこれはわざとですね。だって、僕の世話を焼いてくれる貴方がかわいいから」
「……」
 ダメですか?と、甘えた声で縋られてはこちらは振りほどけない。こいつに甘えられたら、なんでも許してやらないといけないような気分になる。
 本当に、えらい男に捕まってしまったと思う。
「ダメ、というわけではないが」
「ふふ。そうやって僕を甘やかしてくれるところを見ると、ますます愛おしくなりますね」
 まっすぐ向けられる甘い好意に、顔に熱がのぼるのを感じる。嬉しい、と感じてしまう。以前は言葉にされなかった愛しい、という言葉に、過敏に反応してしまう。
 火照った頬をごまかすように、茶を一口啜った。
 すす、と宗三が隣に寄ってくる。こちらの頬に手をかけ、顔を寄せてくる。
「ねえ、長谷部。キスしてください」
 上気する顔から放たれるおねだりには抗えない。まだ少し恥ずかしさからの抵抗感はあったが、おとなしくこちらも顔を寄せて、唇を合わせる。
 何回か触れるだけ、唇同士の柔らかさを楽しむような口づけをしたあと、ぺろりと唇を舐められる。それが合図だったのか、次の口づけからはぬるりと舌が割り込んできた。
「ン、ぁ」
「ねえ長谷部。キスは気持ちいいでしょう?ずっと続けてたいでしょう?」
「ぁ、は、お前、それ、やめろ……」
「気持ちいいでしょう?」
 じゅるじゅると唾液の絡む音の中に、口が離れるたびに刷り込まれるように言い聞かされて、頭の中がくらくらする。その声に本能が揺さぶられるのか、合わせているのは唇だけだというのに、全身の熱が上がり腹の中が疼き出す。
「気持ちいいでしょう?」
「……きもち、いい、けど……」
 繰り返される誘導に、流されて頷いた瞬間、びく、と反射的に体が跳ねた。後ろ頭から背骨にかけて電流が流れたような、そんな感覚。まるで中を穿たれているときに上り詰めた時のような衝撃で、体の力が抜けて宗三の方に倒れ込む。はっ、はっと犬のように呼吸が落ち着かなかった。
「キスだけでイっちゃいました?かわいい」
「い、イってな……いやイったのかこれ……?」
 なんとか宗三にしがみついて、呼吸を整えようとする。射精した、という感じはないが、登りつめて体が跳ねるあの感じは、たしかに絶頂感と言っても差し支えなかった。
 そもそもこいつの声がいけない。ただでさえ振り回され甘えられることに慣れてしまった上に、初めての時にあれだけこの行為は気持ちいいのだと、望んでいることなのだと、まるで洗脳するかのように吹き込まれ続けたのだ。もう、そうやって誘導する声すら身体に毒になってしまった。そのうち声だけで気をやってしまうのではないかという気になってきて、ぞっとする。
「……お前が悪いだろ、これは」
「そうですね、全面的に僕が悪いです」
「このやろ」
 悪びれもせずのたまう宗三に、いらっときて頬を摘んで伸ばす。本気で嫌なわけではないが、これくらいの意趣返しはしても許されるはずだ。
「でも、許してくれるでしょう?」
「……」
 宗三のわがままを許さない、という選択肢は、もう俺の中のどこを探したって見当たらない。その甘えが全部計算だったとわかっていても、かわいくねだられたらやることすべて許してしまう。長年の刷り込みは怖い。
「……お前のやることに何も抵抗できなくなるのは、少し困ってる」
「貴方が本気で困るようなことは、もう言いませんよ。無理を通すのはあの一回だけで十分でしょうから」
「あれが半ば無理やりだったってのは、わかってるんだな」
「そりゃ、貴方は自分が懸想されてるなんて想像もしていなかったでしょうし……一応匂わせはしておいたんですけど、気づいてる様子もありませんでしたし。正直、自分でもあそこまでうまく事を運べるとは思っていませんでしたよ」
 これが最後でもいいってつもりで、結構無茶しました。すみません。
 そんなふうにしゅんと肩を落とす宗三に、否が応でも絆される。あの時はあんなに強引だったくせに、とちょっと拗ねたような気持ちになって、ついでにあの時の、体が、感情が支配される感覚を思い出して、下腹が疼きそうになるのを咳払いでごまかした。
「まあいい。別に、俺も……嫌じゃない」
 こうやってねだられるのも、半ば強制的に命令されるのも。
 全て宗三の掌の上だというのは多少気に食わないが、それだけだ。それに今更どうしようもない、という意識のほうが強い。
 ふふ、と、気を取り直したのか、宗三が小さく笑う声が聞こえた。
「そうですよね。貴方は僕から離れられないんですから」
「それだけ聞くと、すごい自信家の発言になるよな」
 事実だが、そのまま認めるのも癪で混ぜっ返すような発言をする。そんな言葉にも宗三は気分を害した様子はなく、むしろ尚更愛おしげに、楽しそうに笑ってみせるのだった。

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