No.534
未だ苦しそうに長谷部は呻く。まるで溺れかけていたかのような息苦しさで、体が酸素を求めて痙攣していた。
そして気づく。自分が苦しむたび聞こえるこの声は何だと。咳き込むたび、息を求めて喘ぐたび、苦しげに呻く声は……
「へし切、貴方、声が……」
「ぁ、こ、え、でてる、か?」
長谷部は呆然と呟く宗三の方を見る。未だにぎゅっと握られたままの手がそろそろ痛い。久し振りに、いや顕現して初めて聞く自分の声は、あまり自分のものだという実感がわかなかった。
「おい、手。そろそろ痛い。離せ」
「あ、あぁ……すみません」
まだどこか呆然としながら、言われたとおり宗三は長谷部の手を離す。そろそろあの窒息しそうな苦しさも落ち着いて、長谷部はようやくまともにものを考えられるようになってきた。
主は言っていた。完治の方法は、想い合う誰かと両思いになることだと。
人魚姫の逸話通り、想い合うものとの口づけが条件だったのだろう。感情は、恋愛感情でなくとも構わないとも言っていた。幸いにして、こいつも俺に対して何らかの情を抱いていてくれていたということだろう。……それが、俺と同じ、形容しがたい何かでなくとも。
「お前、知っていたのか」
「何がですか?」
長谷部が問いかけるが、宗三は意味がわからずに首を傾げる。その様子に変わったところはなく、本当に何も知らないのだろう。
「というか、貴方、声、出るようになったんですか? なぜ?」
理由がわからないことが不安なのか、心配さが滲み出るような表情で宗三が問う。完治条件が条件だけに素直に言うのも憚られて、長谷部はつい煽るように唇を釣り上げて笑ってしまった。
「さあ? 愛の力かもな」
「愛って、貴方頭でも打ちました? そんなこと言う柄じゃないでしょう」
「知りたきゃ自分で調べろ。俺のこの病は【人魚姫症候群】と言うらしい」
「病気、だったんです? 先天的な欠損ではなく」
宗三のその言葉を聞いて、主は他の刀には病のことを伝えていなかったのだな、と思い知る。おそらく余計な先入観を与えて、こちらに不都合がおこらないようにしたのだと思うが、少しだけ寂しい気持ちになった。
「……そうだ。先天性の異常だが、治る手段はあると伺っていた。お前のさっきのアレは、嫌がらせどころか格好の助け舟だったな」
手を握り開きを繰り返し、体がどこまで動けるか確認する。指や足首など末端は多少動くようだが、腕をあげようとしても異様に重たく感じて動かなかった。まだまだ手入れに時間がかかるのだろう。首は動くので手入れ時間を確認すると、あと3時間と出ていた。
宗三は最初、何を言われているのか理解できていないようだったが、しばらくするとぽっと顔を赤らめて、恥じ入るように両手で顔を覆い隠してしまった。
「ああ、だから、人魚姫……」
「助かったぞ、王子様?」
「やめてください、王子様なんて柄じゃないですよ、僕は」
宗三は顔を覆っていた手を外したが、まだ頬に赤みが残っている。それを愉快な心地で眺めながら、一応フォローのつもりで告げてやった。
「さっきは調べろといったが、ネタバラシをしてやると、別にお互いにあるのは恋愛感情でなくてもいいらしい。ある程度互いに情がなくてはいけないらしいが、それが愛でなくともよいのだと。条件が緩くて助かった」
でなければ、こんなあっさり治るわけがないだろう。
そして気づく。自分が苦しむたび聞こえるこの声は何だと。咳き込むたび、息を求めて喘ぐたび、苦しげに呻く声は……
「へし切、貴方、声が……」
「ぁ、こ、え、でてる、か?」
長谷部は呆然と呟く宗三の方を見る。未だにぎゅっと握られたままの手がそろそろ痛い。久し振りに、いや顕現して初めて聞く自分の声は、あまり自分のものだという実感がわかなかった。
「おい、手。そろそろ痛い。離せ」
「あ、あぁ……すみません」
まだどこか呆然としながら、言われたとおり宗三は長谷部の手を離す。そろそろあの窒息しそうな苦しさも落ち着いて、長谷部はようやくまともにものを考えられるようになってきた。
主は言っていた。完治の方法は、想い合う誰かと両思いになることだと。
人魚姫の逸話通り、想い合うものとの口づけが条件だったのだろう。感情は、恋愛感情でなくとも構わないとも言っていた。幸いにして、こいつも俺に対して何らかの情を抱いていてくれていたということだろう。……それが、俺と同じ、形容しがたい何かでなくとも。
「お前、知っていたのか」
「何がですか?」
長谷部が問いかけるが、宗三は意味がわからずに首を傾げる。その様子に変わったところはなく、本当に何も知らないのだろう。
「というか、貴方、声、出るようになったんですか? なぜ?」
理由がわからないことが不安なのか、心配さが滲み出るような表情で宗三が問う。完治条件が条件だけに素直に言うのも憚られて、長谷部はつい煽るように唇を釣り上げて笑ってしまった。
「さあ? 愛の力かもな」
「愛って、貴方頭でも打ちました? そんなこと言う柄じゃないでしょう」
「知りたきゃ自分で調べろ。俺のこの病は【人魚姫症候群】と言うらしい」
「病気、だったんです? 先天的な欠損ではなく」
宗三のその言葉を聞いて、主は他の刀には病のことを伝えていなかったのだな、と思い知る。おそらく余計な先入観を与えて、こちらに不都合がおこらないようにしたのだと思うが、少しだけ寂しい気持ちになった。
「……そうだ。先天性の異常だが、治る手段はあると伺っていた。お前のさっきのアレは、嫌がらせどころか格好の助け舟だったな」
手を握り開きを繰り返し、体がどこまで動けるか確認する。指や足首など末端は多少動くようだが、腕をあげようとしても異様に重たく感じて動かなかった。まだまだ手入れに時間がかかるのだろう。首は動くので手入れ時間を確認すると、あと3時間と出ていた。
宗三は最初、何を言われているのか理解できていないようだったが、しばらくするとぽっと顔を赤らめて、恥じ入るように両手で顔を覆い隠してしまった。
「ああ、だから、人魚姫……」
「助かったぞ、王子様?」
「やめてください、王子様なんて柄じゃないですよ、僕は」
宗三は顔を覆っていた手を外したが、まだ頬に赤みが残っている。それを愉快な心地で眺めながら、一応フォローのつもりで告げてやった。
「さっきは調べろといったが、ネタバラシをしてやると、別にお互いにあるのは恋愛感情でなくてもいいらしい。ある程度互いに情がなくてはいけないらしいが、それが愛でなくともよいのだと。条件が緩くて助かった」
でなければ、こんなあっさり治るわけがないだろう。
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