天使の羽根

 「統合」してから何回目の最深層だろうか。片割れに問いかけたことがある。彼を解放するつもりはないのかと。
確かに彼女たちにとっては、故意に歪められ苦痛を奪った張本人ではあるが、それにしても永劫あの苦しみは長すぎる。それを伝えたとき、彼女はくすくすと笑っていた。
「上級天使はね、歪んでいたいのよ」
 意味が分からず首をかしげると、さらに言葉が降ってきた。
「あの羽根こそ歪み。あれはほかの天使たちと違い、感覚の続いている身体の一部。
歪み歪ませた神を殺し神になろうとした、彼のバロックの象徴。まだ彼は歪んでいて、本人が肯定できているけれど、納得はできてない部分もある」
 別にわたしは彼を苦しめるつもりはないし、その気になれば彼自身の力で飛び立てるはずよ、と続ける。
「彼の姉の姿を借りていた、イライザだったもの・・・・・・「わたし」から離れたくないみたい。かたちは見えずとも」
 みんな寂しいのね、と、聞こえるか聞こえないかくらいの声でつぶやかれたので、あやうく聞きそびれそうになった。
 「わたしたち」も、「あなたたちだったもの」も、「かれら」も、「歪んだものたち」も、すべて。
 独白のような喋りも終わり、彼女は繰り返す。
「彼が望めば、いつだって神経塔から外には出られるの。バロックに囚われているだけ」

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「ねえさん・・・・・・」
 彼は微睡む。最深部の感覚球に深く深く突き刺さったままで。
 昔の夢をみる。幸せでもなく、不幸でもない、なんでもない夢を。
 ただ、歪みきった姉と白い部屋、ミルク、血、異形、羽根。母親の力ない叫びと父親の冷徹な瞳、主導者としての自分。2心1体のコリエルと姉と自分を重ねながら、微睡む。どこまでも世界は一つで、歪んでいて、僕らは別個の存在だ。彼女らは別個にして一つの存在であるのに。
 我らが主あらざる創造唯一紳よ。
 何故世界はこうなった?
 何がいけなかった?
 何が足りなかった?
 なぜ、歪まなければならなかった?
 もう解読できるものはいない。かつてのただ「存在するだけ」であった「創造唯一紳」は融合の際消滅し、新たに構成され、意志と言葉を持った。それを無理矢理引きはがされ、彼らの意志で再統合した「我らが主あらざる創造唯一紳」に、その答えは出ないだろう。
 姉を救いたかった。それだけだった。

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