『精霊の王とユミルの森の民の共存関係について』といったタイトルの書類の表紙に書かれた『共著:ミラルド・ルーン』の文字を見て、王立アカデミーの博士は頬を緩める。目尻の小皺にそれまでの苦労の見え隠れする、おおよそ四十代といった様相だ。ちょうど、今や世界の救世主ですらある問題児二人が在学していたころに、教鞭をとり始めた人物だった。
ひとまず最後までページをめくり、この場では目を通しきれないと判断し早々に鞄に書類をしまい込んだその人物は、多少の冷やかしもこめてこう言った。
「一目見ただけでもよくまとめられている。レスター博士はよい家内をお持ちだ。して、結婚はいつになるのかな?」
「いや、これはあくまで助手のようなものであって」
家内、結婚の言葉に慌てふためいて文字通り身振り手振りで否定するクラースに、それまで穏やかに控えていたミラルドが腰に手を当てて怒り出す。
「ちょっとクラース、これって何よこれって言い方は! だいたいあなた、私がいなくちゃろくに生活もできないくせに何を言ってるの!」
「そ、そんなことはないだろ。私だって」
「子どもたちに教室を開いて会費を集めてるのも私だし、こまごまとした論文や発表を見せる形にまとめてるのは私だし、第一あなた私がいなくちゃハタキもかけられないじゃない!」
「りょ、料理くらいはできるぞ」
「あなたの特技なんて料理の腕前だけじゃない! それ以外のうちのことをやってるのは誰だと思ってるのよ!」
もう三十を越えるいい大人が繰り広げる、十代のようなケンカに博士は腹を抱えて笑い出す。その姿すら目に入らずひたすらケンカをする――というより、一方的にやり込まれている二人は、それはそれで人目もはばからずいちゃついていると言えるのだろう。
「ああーすまん、悪かった、オレが悪かったからもうやめてくれ」
とうとう降参の素振りで、クラースが両手を上げる。その様子を見てようやくミラルドは舌戦をひっこめた。
「全く、口では絶対に私に勝てないのわかってるくせに、そうやって偉ぶるのをやめらんないんだから」
「……オレにだって、男の沽券ってのがだな……」
「何か言った?」
ぽつりと聞こえた呟きに、いい笑顔でミラルドが振り向けば、クラースは真面な顔で左右に首を振った。
「何も言ってない。ないぞ」
今も昔もあいも変わらず
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