柄にもなく、まるで桜の化身かと抽象的なことを思った。
「……宗三左文字といいます。貴方も、天下人の象徴を侍らせたいのですか……?」
背は高いが猫背気味で撫で肩、刀が振るえるのか疑問に思うほどの痩せぎすの体のせいで、ことのほか細く儚げに見える。記憶の中の彼より細く色味もがらっと変わっているせいか一瞬気づかなかったが、その高すぎず低すぎずの中性的な発音で、それが誰だかを認識することができた。
主に名乗りを上げた彼は、斜め後ろに控えるこちらに視線をやる。そして、その憂い気な瞳を少し見開いた。
「貴方、へし切ですか。貴方もこちらに?」
呼ばれた名に、ぎりと唇を噛み締める。
「……へし切長谷部だ。長谷部と呼べ。あの男の狼藉が由来の名など、反吐が出る」
こちらの反応に少し考えるようなそぶりを見せて、納得したように返事を返した。
「ああ、気にしているんですか、下げ渡されたこと。刀があちこち主を渡り歩くなど、当たり前のことでしょうに」
天下人のもとを渡り歩いた、と自称するだけあって、また、元々が贈答品であったこともあって、宗三にとってはそれは普通のことなのかもしれない。けれど、自分にとっては、あまりにも衝撃的なことだったのだ。特に、直臣でもないようなただの使いにやられたことは。
それが結果、自分にとってよいことだったのだとしても。
主は顔見知りなら話が早いと、宗三の案内をこちらに任せて立ち去って行った。慣れない肉の器の感覚と、見知らぬ場所を歩く好奇心とでおぼつかない足元と泳ぐ視線を引っ張るように誘導しながら、本丸を一通り案内する。目を離すとどこかに行ってしまいそうで、その手を引いて歩いた。
掴んだ手は見た目通り細くて骨ばっている。しかし、ちゃんと刀を握れる、武士の手だ。そのことになぜか妙な意識を感じながら、案内する体で宗三を観察する。
垂れ目半目気味のそのまなざしのせいでぼんやりしているようにも思えるが、こちらの説明を先回りして質問してきたり、説明する前から見当をつけて指摘してきたりと、けして中身まで腑抜けた刀ではない。もとから知っていたことではあるが。
本丸を一周して、新しい刀にと割り当てられる部屋にたどりつく。
この本丸では、新しく顕現した刀と、立ち会った刀がしばらく同室になる仕組みだった。それを説明すると、宗三は心なしか嬉しそうに言う。
「では、僕はしばらく貴方と同室なんですね」
「お前がこの本丸に慣れるまではな」
「なら、ずっと慣れないままでいいです」
「……何を言っている?」
いきなりやる気がないと取れる発言をした宗三に、眉を寄せてきつく言う。こちらの言葉の強さなど受け流すように、それまでぼんやりとした表情をしていた宗三が、にっこりとほほ笑んだ。
それはまるで、花のつぼみがほころぶように。情緒のないと言われる自分ですら、見ほれるような笑顔で。
「だって、僕、貴方とずっと一緒にいたいんですもの。ずっとね」
もう離れることのないように。そんな小さな呟きが、聞こえた気がした。
叶う筈もなかった『ずっと』
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