閨01

「……ッゲ、あ、は……グッ、うぇ」
 喉の奥に容赦なく突っ込まれて、体の反射で異物を押し出そうと喉奥が痙攣する。嘔吐反射による粘性のない唾液が、閉じられない口の端からだらだらとこぼれて顎を伝い落ちた。
「相変わらず、クチの使い方が下手ですねえ。もうちょっと喉ひらけません?」
 嘲る言葉と裏腹に心底楽しそうな声色に、屈辱感と、倒錯じみた快感が背筋を這い上がる。いい様に使われる怒りと、自分の意志などないように支配される歓びという相反する感情に支配され、この高まる興奮が不快感なのか性感なのかも曖昧になっていた。
 ぐしゃりと髪を捕まれ、前後に揺さぶられる。息継ぎすら難しいほど口いっぱいまで突っ込まれる肉の棒に、なんとか歯を立てないことだけを意識する。えづきつづけるせいで滲んだ涙がぽろぽろ落ちて、はやく終わってくれという気持ちと、ずっと甚振られていたい気持ちの両方を感じていた。
「はあ、下手くそ」
 ずる、と口の中から引っこ抜かれ、髪を掴む手が離される。頭を支える気力もなくべしゃりと布団の中に倒れ込んだ。
「ほら、起きなさい。まだ何もしていないでしょう」
 ぺしぺしと、手の甲で頬を叩かれる。まだ軽く咳き込みながら、どうにか腕で体を起こした。うつむいて咳き込む最中に、顎を指でクイと上げられる。
「きったない、ぶっさいくな顔」
 かけられる言葉の内容と裏腹に、その目も顔もとろけそうなほど甘くやさしい。半開きになった口を覆うように、食べられてしまうのではないかと錯覚するようなキスをされた。口の中に溜まった唾液まで奪われるように腔内中を荒らされて、しまいに流した涙の跡を舐め取るように頬を舐められる。幼児にするように鼻水まで吸われて、もう何も考えられずに笑ってしまった。
「奉仕も満足に出来ないような悪い子は、躾けてあげないといけませんね?」
 膝立ちでこちらを見下ろすその顔は、絶対に逆らえない支配者の目そのものだ。自分の全てを奪われ所有され支配されるその快感に、もとから残っていない全身の力が抜ける。
 少し待っていなさいと言われ、宗三がその場から離れる。戻ってきたその手に持っていたのは、手錠と電動の玩具と張型だった。
「手を後ろに回しなさい」
 完全に熱に浮かされた頭が、命令に従おうとする。両の腕を後ろに回して膝立ちになろうとして、笑っている膝が役に立たずに肩が布団にのめり込む。気にせず宗三は、俺の両手首に手錠を掛けた。
「ああ、この体勢、やりやすいですよ。いい子いい子」
 そう言って俺の頭を撫でる。大きな手のひらに擦りつくようにうっとりすれば、調子に乗るなと軽く叩かれた。
 どろ、と生暖かい感触が、尻の谷間を伝って下まで垂れる。たいして慣らされてもいない穴に、玩具の冷たい先端が押し当てられ、ぐいぐいと押し込まれて圧迫感に呻いた。
「苦しいですか? でもあなた、いつももっと大きいものも喜んで咥え込んでるでしょう。たまには苦しいくらいが丁度いいんじゃありません?」
 少しでも苦しさを逃そうとリズミカルに呼吸をする合間、楽しげな宗三の言葉が耳に入ってくる。それとこれとは別、と言おうとして、急に動き出した腹の中のものに意識を奪われ意味のある言葉は出てこなくなった。
「ぐぁ、あ、アァァッ!ひ、うぁ、やめ」
「ほら、これで練習でもなさい」
「ふグッ」
 準備のできてない体の中を荒らされる振動にめちゃくちゃな声をあげようとしたその瞬間、張型を口の中に突っ込まされる。反射的に、歯を立てないよう口の中で咥え込んでいた。
「上手にできたら、やめてあげますから」
 その言葉に、普段やっているように舌を這わせ始める。口の中の冷たい異物を舐めることに集中したいのに、腹の中で好きなように暴れる玩具が気まぐれに良いところを掠っていくのに集中力を乱される。普段シてもらうのとは違って、あくまでランダムにしか良さを与えてくれない玩具が焦れったくて余計に性感が高まっていった。それと反比例するように、口は全然動かなくなる。
「ほら、おくち止まってますよ。そんなんじゃいつ終わることやら」
「んぁ、ん、む、ふ、うう」
 しゃぶるというより口で挟むという体たらくの張型を、宗三が気まぐれに動かす。そのたびに、だらだらと口の隙間から唾液が垂れた。
 なんとか、自分の唾液ごと吸い込むように、ぢゅ、ぢゅと口をすぼめて吸い上げる。血管を模した凹凸に舌を這わせ、先端を舌の根元を使うように圧迫する。その間も後ろを責める振動は止まらない。いよいよ高まった性感は、もう玩具の振動そのものにすら耐え難い快感を生み出していた。
「ふふ、腰が揺れてる。やらしい。まるで犬が尻尾を振ってるようでお似合いですよ」
 そんな揶揄する言葉にも、自分が本当にどうしようもない生き物になったようで興奮する。がくがくと震えながら、絶頂を迎えられる時を待っていた。
「はい、おしまい。よくできました」
 あと少しで達せられる、そんな瞬間、いきなり玩具の動きが止まり口の中の張型が抜かれる。事態がよく理解できないまま、ぽかんと宗三の顔を見上げた。
「なんですか、その顔。みっともない。まあまあ楽しめましたしね、今日はこの辺で勘弁してあげますよ」
「あ、あ……」
 はくはくと、自由になったはずなのに声の出ない口を開ける。ずるりと動きのなくなった玩具まで引き抜かれ、さっきまで熱く埋めてくれた質量がなくなった寂しさに腹が疼いた。
「……どうしました?」
 にやり、と宗三が笑う。それが誘導だとわかっていても言わずにはいられない、むしろ言わせてほしくすらなっていた。
「いやだ……やめないで、くれ」
「でも、もう僕飽きちゃいましたし」
「やだ、おまえが、おまえが欲しい」
 その一言に、あくまで余裕のあった宗三の空気が、少しだけ変わる。
「……へえ?つまり?」
「……入れて、ほしい……」
 蚊の鳴くような声だったが、ちゃんと目を見て伝える。涙で滲んだ視界ではわかりにくいが、たしかに微笑まれたことだけはわかった。
「よく言えました」
 頭をひと撫でして、宗三の姿が見えなくなる。その後に、高く上げたままだった腰を、骨ばった手が掴む感触がした。穴の縁を指先がなぞる。
「たいして慣らしてもいないのに、もうこんなに緩くなって。熱を持ってぷっくりふくらんで、ねえ。まるで性器ですよこんなの。いやらしい」
「や、言う、なっ!」
 羞恥に身を震わせて、真っ赤になった顔を布団に埋める。待ち望んでいた熱い塊がそこに押し当てられて、ゆっくりと埋め込まれていく快感に、腰から首筋まで電流が走った。
「アッ、アアアッ!」
「ッ、ふ……相変わらず、いい肉だこと」
 玩具なんかとは違う生身の熱さと、確実に良いところに当ててくるその肉の棒に、喉からは意味のない音の羅列が止まらない。一突きされるごとに下半身全体が熱くて、自分の体なのに何がどうなっているのか何もわからなかった。
「んあっ、ひ、あぁっ、ぅあ、っ」
「一突きするたびに、中、ビクビクしてるんですよ。毎回イってるんじゃありません?あなた、淫乱ですものね」
「ちが、あ、あぁぁっ!」
「違わないですよ。この感じやすい体も、すぐ快楽に負ける精神も、ちゃんと僕が作り変えてあげたんですから。素直に享受してればいいんです」
 真っ白になった頭にも染みる、強烈な支配欲に、バチッとまぶたの裏が弾ける。気づけば、獣のような声を出して腰を押し当てていた。
「い、ア、アアアアアッ!!!」
「……ッ、あ、出る……ッ!」
 両手を拘束されていなければ暴れだしていそうなほど強烈な快感にもがく体を、力任せに抱きしめられる。中に奥深くに種付けられるように出されて。しばしふたりで荒い呼吸を重ねていた。
「……ったく、ほんと、あなたってば」
 お互いの呼吸も落ち着いてきたころ、しみじみといった感で宗三が呟く。興奮が収まってきて照れが勝ち始めてきた自分は、布団に押し付けたせいでくぐもった声で聞き返した。
「何だ」
「いえ。……好きだなあと」
 俺は「好き」という言葉を、簡単には信じられない。いや、信じたくない。だってそれを伝えてくれた人間たちは、それが定めとはいえみな俺を置いていってしまった。
 それでも、こいつのこの言葉を、今の自分は信じてしまっている。信じさせられた。
「……俺だって、お前じゃなきゃこんなこと許さんさ」
「えっ、それ、あなた」
 慌てて信じられない様子で聞き返す宗三に顔を見られないよう、布団に顔を埋めたままで笑っていた。

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