「見た目の割に、案外食える料理を作るよな、お前」
泡立ったスポンジでこすっても、なかなか油汚れは落ちてくれない。しつこい汚れに悪戦苦闘しながら、ふとどうでもいいことが口から漏れた。
「何ですか、見た目のわりにって」
流れる水音で掻き消される程度の声量だったが、しっかりと件の相手の耳には届いたらしい。テーブルに肘をついてぼうっとしていたはずの宗三から、少しくぐもった不快さを滲ませた声が返ってきた。
「箸より重いものは持てなさそうな見た目をしてるくせに、わりと何でもこなすのが意外だと言ったんだ」
「失礼な事言いますね。むしろあなたが不器用なだけですよ。まあ、あなたの雑な料理も嫌いじゃありませんが」
「うるさい。飯なんて食えればいいんだ」
うっかりつついた薮から蛇が出てきて、舌打ち混じりに言い返す。自分の料理が下手だと思わないが、雑というか、大味であることは否定できない。
後ろから、椅子を引いた音がして、ぺたぺたとこちらに近づく足音が聞こえてくる。が、それをあえて無視をして、流れていく食器の泡に意識を集中させた。体温を感じそうなくらい近くに寄られ、耳に息のかかるくらい顔を近づけられても気づいていないフリをする。だが、次に耳元で囁かれた言葉には、さすがに無反応を貫くことができなかった。
「ねえ。料理のうまい男は、指遣いがうまいと言うそうですよ」
つるっと、手の中の皿を取り落したのは泡で滑ったせいだ。動揺したからじゃない。断じて。
「……楽器の扱いのことですよ? どうしました、そんなに動揺して」
「無理やり青江みたいな言い回しで取り繕うのはやめろ! 絶対違う意味で言っただろ、今!」
さすがに耐えかねて振り向こうとした途端、ぐっと腰を抱き寄せられ、首筋に柔らかいものが当てられる。その感触で、金縛りをかけられたように動けなくなった。
「確かめてみたいと、思いません?」
耳と頬をくすぐる、生暖かい吐息。高いが、芯のあるしとやかな男の声。
色気を滴らせたその声に、一瞬で自分のスイッチが切り替わった。
「……そうだなァ、下手くそだったら鼻で笑ってやる」
「笑える余裕があるといいですね」
煽りを込めて振り返れば、そのまま唇を奪われた。
キッチン01
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