異様に距離が近いだけですが - 1/2

 この本丸の長谷部と宗三は仲がいい。
 仲がいいどころか、ちょっと異様なくらい距離が近い。
 非番の日は大抵どちらかが側にいるし、肩に寄りかかったり膝を枕にして寝ていたり、宗三の長い髪を手持ち無沙汰に弄んだり、長谷部の形のいい頭を愛でるように撫でていたり、とにかくいちゃついてばかりいる。
 長谷部か宗三のどちらかに用があるなら、相方を探せばいいと思われているほど、ふたりはべったりくっついているのだった。
 そんな有様だから当然、ふたりはこいびと同士なのだと思われている。面と向かって問いただしたものがあるわけではないが、聞くまでもないだろうと、本丸内での暗黙の了解となっていた。

 そんなわけだから、薬研が宗三を探すにあたってまず足を向けたのが、長谷部の部屋だったのは当然のことだった。
「よう長谷部、宗三はいるか?」
「ここにいるが」
 はたして予想通りというべきか、目当ての刀はそこにいた。
 部屋主である長谷部が両足を伸ばして座椅子にかけている。その足に頭を乗せて、時折足に擦り寄るようにじゃれ付きながら宗三が横になっていた。
「なんですか薬研、僕は今忙しいんですけど」
「その状態で堂々と忙しいと言える根性には感服するが、あいにくこっちも用事でな。大将が呼んでる」
「……主が呼んでるんじゃ、仕方ないですねえ」
 名残惜しげにもう一度太ももに額をこすりつけ、宗三は両手をついて上半身を持ち上げる。中腰になった状態でふと宗三が顔を上げると、なにやら口元をむずむずさせた長谷部と目が合った。
「……ああ」
「ん」
 長谷部のその表情を見て、心得たように宗三が手を伸ばして長谷部の頬を包む。おとなしく目を閉じた長谷部の顔に顔を近づけ、軽く唇を合わせてすぐ離した。
「じゃあ行ってきます」
 膝に手を付き、完全に立ち上がってぱんぱんと前掛けを払う。宗三は長谷部と薬研にひと声かけてから、薬研の横を通って立ち去っていった。
 ヒュウ、と薬研が口笛を吹く。
「相変わらずお熱いこって」
「……」
 ニヤニヤと冷やかす気満々の薬研の表情と裏腹に、長谷部はどうともいえない表情をしている。恥ずかしがるでもなく、当然と受け止めるでもなく、なぜだか少し戸惑いのような色を感じ取った薬研は、ニヤけた表情を引っ込めた。
「どうした長谷部、浮かねえ顔だな。連れ合いが行っちまって寂しいか」
「連れ合い……」
 薬研の言葉に、ますます長谷部の顔は難しくなる。よくわからない反応に興味を惹かれて、薬研は長谷部の部屋に居残ることにした。
「どうも誤解されてるみたいなんだがな。あいつとはそんなんじゃないんだが」
「はあ?」
 どかりと長谷部の目の前に立て膝をついた薬研は、長谷部のこぼした言葉に大口を開けた。いやいや、どこからどう見ても比翼の鳥、連理の枝のごとくの仲睦まじいひとつがいだろう。
「いや、旦那……あれだけいちゃついておいて、そりゃ無理があるぞ」
「いちゃつくって言ってもな。ほんとにただ仲がいい……まあ、友人といったところか」
 長谷部が本気で言っていることを感じ取り、薬研は押し黙る。正直ドン引いていた。
「……長谷部の旦那は、ただの友人に膝枕をしたり、キスをしたりするのか?」
 もしそうだとしたら、今後の付き合いを少し考えないといけない。しかし長谷部は首を振った。
「いや、それはさすがにあいつ相手だけなんだが……」
 そんな腑に落ちないといった顔をされても困る。腑に落ちないのはこちらの方だ。
 さすがに長谷部も、ただの友人相手に抵抗なくキスをすることに対して違和感を覚えてはいるらしい。けれど、それは恋愛感情ではないと言い切る。ではどんな感情なのかと聞いてみても、はっきりとした答えは返ってこない。自分でもよくわからないらしい。
 当人にわからないものが薬研に理解できるはずもなく、二口の間になんとも微妙な空気が漂ったのだった。

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