異様に距離が近いだけですが - 2/2

 また、ある日のことである。
 不動と宗三が、二口で黙々と洗濯物を畳んでいた時、なんの気無しに不動が切り出した。
「実際さあ、長谷部とお前って付き合ってるの」
 本日の洗濯当番である堀川派が、元気よく取り込んで、元気よく持ち込んでいった山のような洗濯物をふたりでちまちまと畳みながら、雑談代わりに話を振ったのだ。
 ふたりとも、顕現年数が長い分手慣れてはいるが、丁寧すぎてあまり畳む速度は早くない。黙々とやるにも気が滅入る量だ。気紛れくらいにはなるだろうと、前から少しだけ気になっていたことを聞いてみたのだった。
 どうせ不動には答えもわかっている。この何事にもあまり動じない、どこか達観気味の顔なじみの表情を少しでも動かせたらと、その程度の前振りだった。
 しかし、その目算は外れたどころか、こちらが目を剥く返事が返される。
「長谷部と? いえ、別にそんなことはないですが」
「えっ?」
 思わず手を止めて宗三の方を見る。顔すら上げずに黙々と洗濯物を畳んでいた宗三はこちらの視線に気づくと、手が止まってますよと注意をしてくる始末だった。
「えっ、いやいやしょっちゅうくっついてるじゃんお前ら。所構わずキスするし。それで付き合ってないとか嘘だろ?」
「はぁ……まあ、そうですけど……」
 なぜ驚かれているのかわからない、という腑に落ちなさそうな表情をされるが、こちらのほうが心外だ。いやだって、そこまで親密なのはどう考えてもこいびとの距離だろう。
 そっくりそのまま言い返すと、怪訝な表情は変わらないまま、首だけを徐々に傾けた。
「ううん……まあ、言わんとすることは解るんですけどねぇ……でも違うとしか言いようがないんですよ」
「何が違うんだよ」
「たとえばこいびとだとしましょう。手を握る、頬に触れる、キスをする。そこまでは僕も抵抗なくしています。けど、それ以上の、いわゆる性的な要素の絡む接触を、したいとは思わないんですよね」
 多分それはあれも同じだと思います、と言い切られ、わかったようなわからないような気持ちで押し黙る。まだ不服そうなこちらの様子を見てとって、さらに宗三は言葉を続けた。
「僕も長谷部も、相手を性的には見ていないんですよ。まるで自分自身に触れるように、触れ合いには何も抵抗はないんですが、自分に性欲を抱かないように、相手に恋愛感情を抱くこともない。僕らはそこまでナルシストでもないので」
 肩が触れるほど距離が近い。ことあるごとに唇を触れさせるほど親密である。それでいて、そこに性愛と結びつく感情は一切ないという。
 もう、不動には何がなんだかわからなかった。
「そんなことってある?」
「だって現状そうですから。僕とあれの触れ合いは、挨拶がわりのようなものですよ。畜生に喩えるのも少々齟齬がありますけど、犬猫が鼻先を触れさせ合っているのを見て、それだけで番なのだと思います?」
「そう言われりゃそうだけど、宗三と長谷部は付喪神じゃん。しかも刀剣の」
 刀剣というのはその性質上、人間に寄り添う時間が長い。それゆえそこに宿る付喪神も、おおかた人間と同じような感情、情動、動向を示す。
 それゆえに、そこまで自己と他者の差が曖昧になっているのも、全くもって普通じゃない。口と口をくっつけるのを、犬猫のしぐさと一緒にできるはずがないのだ、普通なら。
 けれど、不動の困惑した様子に、宗三はただ困ったように眉を下げるだけだった。
「……これ以上うまく説明できる気がしません。そういうものだと思って下さい」
 不動はとても飲み込めるものではなかったが、宗三が本当に困っているのも否応なく伝わってはきてはいたので、喉に引っかかった小骨のような違和感を、無理やり飲み込むことにしたのだった。

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