小さな貸しは

「なあー長谷部奢ってくれよお」
 屋台に向いていた不動が後ろの長谷部に向き直って、ねだる。
 何かと思えば繊細な細工の飴菓子で、それくらい自分で買えと一蹴すると、今ちょうど財布を持たずに出たところだったんだと返された。
「ね、普段俺には世話になってるだろ?」
「自分で言うなよ」
 不動とは何かと気安い仲だ。前の主のときは入れ違いで接点がなかったが、この本丸で過ごす上で、馬が合うのかどうも一緒にいる時間が長かった。互いに思うところありながら、お互いの傷を舐め合うような、いたわりあう様な、そんな関係が気持ちよかったのかもしれない。
 互いに極めて来てからは、過去のこと関係なく、よい友刃となっている。こうやって、柄にもなく不動が甘えてくるくらいには。
 やれやれ、と自分の財布を開く。小銭を出して代金を払ってやれば、ありがとなと満面の笑みで向かえられた。思わず頭を撫でてやれば、子供扱いかよと苦笑される。
「一つ貸しだな」
「いつか返すよ」
すぐには手を付けず、細工の細かさを愛でながら言う不動に苦笑した。

 

「それで? あなたはいつ返してくれるんですか」
「何をだ」
 出先のそんなこんなを話の種にして、宗三と花を咲かせていると、突然趣きが変わって困惑する。こいつに何か借りたか、てんで覚えがない。
「ほら、あの時の。あなたが酒がないからと買い足しに行って、少しだけ足りなかった時の」
「……ああ! あれか!」
 言われてようやく思い出す。
 政府から軽装という名目で洒落着を与えられてからというもの、買い物という名目で二口でやたらと出掛け続けている。それもその中の一つで、部屋の酒のストックが心許ないという名目で酒屋に行った際、少しだけ予算が足りなかったのだ。それを借りたことをようやく思い出した。
「すまん、今返す」
「そうですね、返してもらいましょうか。利息をつけて」
 自分の財布を取りに行くつもりで腰を上げかけた着物を捕まれ、立ち上がりそこねる。バランスを崩して倒れかけたそこに宗三が覆いかぶさって、口付けをされた。昼日中にするにしては罪悪感を覚えるような深さで。
「っあ、ふ、あ」
「……ふふ、いい顔」
 突然のことで呆けた顔をしていただろうこちらの頬を一撫でして、宗三は身体をどかす。なんてことない顔で、また茶をすすっていた。
 口元を腕で拭って、抗議する。
「っいきなり、何するんだ!」
「だから、返してもらったんでしょう。利息をつけて」
 その程度のはした金より、あなたがいいです。
 そんなことを澄ました顔で言い放つ宗三に向けて、照れ隠しまぎれに座布団を投げつけた。

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