酔っぱらいの弱気

「俺を捨てるのか?」
 まず第一声がそれだった。
「どうしてそうなるんですか。話が飛躍しすぎてますよ」
「永遠に手放さないと言ったあの言葉は、嘘だったのか? 結局、信じた俺が馬鹿だったのか?」
「落ち着いて下さい、なにもそんなことは言っていません」
「ならなぜ連れて行かない!」
 ああ、珍しく、本当に珍しく酔ってるなと、途方に暮れながら思う。
 長谷部は自分とは比べ物にならないくらい酒に強い。恐らくは、元の家の性質が強く出ているのだろう。酒飲みの逸話を持つ連中とは比べ物にならないが、それでも普通の刀の中では宴の最後までついていける方だ。
 その長谷部が酔っている。こんな時押し付けられるのは大抵日本号なのだが、先に気配を察したかとうに姿が見えない。逃げたな、と内心歯噛みする。
「あのね、捨てる捨てないの話じゃないでしょう。ただ、主が鎮守府に行くというから近侍として共をするだけで」
「どうして俺も連れて行かないんだ! お前だけが見目華やかな女人どものところに行って、どうせ浮気でも、いや乗り換えでもしてくるんだろう!」
「なんで普段の僕の態度からそんな言葉が出てくるんですか? さすがに怒りますよ」
 泣き出しこそしないものの、わあわあとへたりこんで理屈もなにもないことをわめきちらす長谷部はまるで手のかかる子どもだ。こっちの話などまるで聞きやしない。
「ならついてくればいい、と言いたいところなんですが、共は一口だけの厳命ですからねぇ……」
 それも主が指定したのは、乱藤四郎や骨喰藤四郎など、ある程度あちらに混ざっても問題ない見目のものばかりだった。順番にお鉢が回ってきたのが自分だったというだけで。
「そもそもこちらは付喪神、男も女もあまり関係ないでしょう。あちらはどういう存在かは知らないが、こちらの天敵である潮風を纏った兵器ですよ。どうしてそんな発想になるんですか」
 抱え込んで離さない一升瓶をそのまま呷って、長谷部はぐずぐずと続ける。
「だってお前、じゃあ何で俺は気に入られたんだ。なんでお前は俺を絶対に手放さないなんて言うんだ。どうせ興味を失えば、あっさり手放す性分のくせに」
 なぜ、と言われてもこちらも困る。理屈じゃないからだ。
 主の後ろを犬のようについてまわる可愛らしさが好きだ。その性根の真っ直ぐさ、不器用さ、いじらしさ、捻くれた性格、全てが好みなのだからしょうがない。他のものなど眼中に納まらないほど。
「どうせ俺に似たようなものがあれば目移りするんだろう。あの男もそうだった」
「それを言われると否定しにくいんですけどね。けれど、断言しますよ。僕は魔王の性質を受け継いでいるが、魔王そのものではない。僕は一度手に入れたものは絶対に手放しませんから」
 酒気で真っ赤になった、ぼんやりとした顔の長谷部がこちらを向く。わかったようなわからないような、けれどさきほどまでの手のつけられないようなわめき方はおさまった。
「……もし目移りしたら、」
 その先は長谷部自身も口に出せなかったのだろう。口に出さなくとも、こちらには伝わったから充分だ。
「無用な心配なんかしてないで、もうさっさと寝てしまいなさい。布団にたどり着ける前にね。それとも送ってやりましょうか」
「……もう立てないんだ」
 こんなときでもないと見せない甘えた顔で、肩をせがむ。両腕を上げた長谷部を抱きかかえ、そのまま部屋を後にした。

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