まわりのものが寝静まり、静かな薄ぼんやりとした闇の中。一つの布団の上に重なって、愛しいものが身体の下にいる。
そのまま雰囲気でことに及ぼうと、相手の服に手をかけたところで、肩を押さえられ止められた。
「待て」
じっとこちらを見つめる目に何を求められているのか、最初はわからなかった。けれど、何回かそういうことが続くうちに、ようやくわかった。
服を脱がせる前に、唇と唇を合わせる。それでようやく、こちらを押しのける力が緩むのだ。
これは長谷部なりのこだわりなのかもしれない。ちゃんと愛されているのだと、言葉だけでなく行動でも、これは欲だけではなく愛情を示す行動なのだと、わからせてほしいと。
向こうは何も言ってこないから、こちらの想像に過ぎないが。
それがこだわりなのだと思っているのだろう。わざと、そう思うよう仕向けた。けれど、実は違う。
こだわりだとかそんなものじゃない。ほんとはそんなものなくったっていい。けど、単にそうされることが好きなだけだ。
たまには無理やり暴かれるのも悪くない。どうも自分に被虐的な嗜好があるのも自覚している。そしてそれを求めれば、相手も喜々として応じてくれるだろうこともわかっている。
けれど、行為が始まる前の、その重ねるだけの口づけが、どうにも優しくて好きなのだ。
だから、偽りのこだわりから出来上がった暗黙の了解を、今日も崩さずに受け入れる。
永遠を信じられない自分に、永遠の夢を見せようとしてくるこいつに、ちょっとしたわがままを。
この毎日が続くのだと、儀式めいたやりとりをいつまで続けてくれるのか。
この口づけが続く限り、愛されている日々は続いているのだと、信じさせてくれるのだ。
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