平穏のうちの甘い日々

 出陣のない日の夕餉の席は、特別賑やかだ。
 出陣がない日だけは、夕餉の席での飲酒が許される。今の主の影響か、この本丸の刀たちは酒を好むものが多い。自然と、仲の良いもの同士で集まって、酒を酌み交わしながら食事を摂る。それに合わせて、料理も味の濃いものになることが多かった。
 普段は酒に弱く飲まない宗三も、こういう時だけはたまに舐めるように果実酒を嗜む。長谷部に付き合ってのことだった。
「しかし、毎度思いますけど、それほどいいものですかねえ、これ。僕にはあまりよくわかりません」
「酒は百薬の長と言うだろうが。実際、お前の気鬱にも効くだろ」
「薬もとりすぎれば毒ですよ。まあ、確かに多少気が緩むのは否定しませんが」
 上機嫌で日本酒を呷る長谷部と、普段よりも柔らかい雰囲気をかもしている宗三の二口で、ぐだぐだととりとめもない話をする。そこに割って入るような無粋な輩もいるはずがない。
 次第にアルコールが回ったか、宗三がこてんと隣に座る長谷部の肩に寄りかかり頭をのせる。
「……ふふ。やることがないというのも、たまにはいいものですね」
「たまにはな。たまに、でいい。でないと体が鈍りそうだ」
 長谷部もまだ酔うような酒量ではないが、多少気分が上向いているのか、寄りかかってくる宗三に同じように体を寄せる。大広間だというのに、他の刀の存在など忘れたかのような振る舞いに、周囲も見ないふりをしていた。所詮、いつものことである。
「ねえ、僕にもあなたの一口くださいよ」
「これはお前には度がきついと思うぞ」
「一口くらいいいでしょう、ねえ」
「……仕方ないな、ほら」
 上目遣いでねだる宗三にあっさり負けて、猪口にほんの少しだけ注いで宗三に差し出す。しかし宗三はそれを無視して、自分のほうを向いていた長谷部の頬を両手でつかんで口づけた。
「――!?」
 ぬる、と舌が入り込み、上口蓋を舐める。回ったアルコールのせいでずいぶんと熱い口中にその感覚は艶めかしく届いて、長谷部は猪口をうっかり取り落としそうになった。
 そう口づけは長いものではなく、あっさりと宗三は口を離す。余韻を感じるようにぺろりと自分の唇を舐めて、蕩けた表情でつぶやいた。
「うん、ぴりぴりします」
「……お前、酔いすぎだ。もう戻るか?」
 酒のせいではなく顔を赤くした長谷部が、猪口を机に置いてため息をつく。
「そうします。連れて行ってください」
「ったく、しょうがないな」
 ふらっとしながら立ち上がる宗三に続いて、その背を支えるように長谷部も席を立った。
 ふたりの部屋で、続きをするために。

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