試行錯誤のバレンタイン - 1/2

 布団も片付け身支度も終わり、部屋を出ようとしたところで、後ろから長谷部に声をかけられる。
「おい、これ」
 つっけんどんに突き出されたそれは、なにやら綺麗にラッピングをされた四角い箱で、突拍子のなさに困惑する。
「え、何ですかこれ」
「お前が言ったんだろうが。いつか自分のためだけに作ってくれと」
 長谷部の言葉に頭の片隅から、いつかそんなことも言ったかもしれないと記憶を引っ張り出す。期待はしていたが、まさか本当に作ってくれるとは思いもせずに忘れていた。
「……あの、聞くのも野暮だと思うんですけど、これは」
 バレンタインのチョコレートというやつでは。言い切る前に、食い気味に長谷部に遮られた。
「野暮だと思うならいちいち聞くな。恥ずかしい」
 ここ数日気を揉んでいたこちらの気にもなれ、と長谷部が小声でぼやく。うっすら赤みが差している長谷部と比べ物にならないくらい、こちらの頬も赤らんでいたと思う。
「いいから早く受け取れ。それとも要らんのか」
「要ります! 要りますってば!」
 そのまま引っ込められそうになった箱を引ったくる勢いで受け取って、箱を潰さないように胸元に抱く。
「これ、僕だけのために作ってくれたんですか」
「……当たり前だろう! いちいち聞くなと言ってるだろうが!」
「あ、ありがとう、ございます」
 感極まって途切れ途切れになったこちらの返事に、長谷部は顔を逸らしたまま、ふんと鼻を鳴らした。
 そのままそっと、長谷部に近づく。顔を背けたままの長谷部の体を、そっと抱きしめた。耳元に口を近づけて、言葉を流し込む。
「お返しは、何がいいですか? 何でも差し上げますよ」
 耳にかかる息にびくりと長谷部が身を捩らせる。しばらく息を呑んでぐっと押し黙ったが、躊躇するように下唇を舐めて、口を開いた。
「お前がずっと側にいるなら、何も。二度と離れないのなら、何もいらん」
 その言葉に、耳朶に口付けをする。
「離れませんよ、もう二度と。貴方を手放したりはしません。たとえこの身が折れようとも」
「……なら、いい」
 じっとふたり身を寄せ合ったまま、くっつき合う。結局外から声がかけられるまで、ずっとそのまま体温を分け合っていた。

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