部屋に入った長谷部は、宗三が抱いているぬいぐるみを見てぽつりと声を漏らした。
「うさぎ」
「ええ、あなたモチーフだそうで。可愛いでしょう?」
紫色に、ちいちゃなストラを身に着けたそのうさぎのぬいぐるみには見覚えがある。
定期的に政府は審神者向けに刀剣男士をモチーフにした商品を出していて、大抵の場合男士愛好家でもある審神者からは毎回歓喜の悲鳴が上がる。ここの審神者も例外ではなく、今回発表された新商品の型録の中に、そんなぬいぐるみがあったはずだ。
それがなぜ宗三の腕の中に収まっているのか、という疑問はともかくとして。
確かにそのぬいぐるみの姿は愛らしいのだろう。ふわふわとしたうさぎを象ったそのぬいぐるみは、触り心地もよさそうだ。しかし、宗三の言葉を肯定するのもしゃくで、口をつぐむ。
「主が『今回のも可愛いけど金額が可愛くないから悩む』って言ってたでしょう? だから、半分出すから所有権を分けてほしいと伝えたんですよ。主は快諾してくれましたよ」
まるで本物のうさぎ相手のように顎の下を指でくすぐり可愛がる。そんな宗三の姿に、むくむくと余計な嫉妬心が湧いて出た。
後手で襖を閉めて、座椅子にあぐらをかいていた宗三の目の前で、ぺたりと座り込む。わざと下から顔を見上げるようにして、言ってやった。
「そんな綿切れより俺のほうがかわいい」
「ンッ……」
にやりと笑って言い切って見せれば、宗三は変な呻き声をあげて俯いてしまった。長い前髪が影になって表情は伺えない。ぷるぷる震えるその反応がいいものか悪いものかわからないが、宗三が自分のすることで悪い反応をするだなんてかけらも思っちゃいなかった。
それも、この宗三がずっと、ずっと時間をかけて「あなたが好きだ」と、「あなたはかわいい」と伝え続けた結果なのだ。あの長谷部をよくここまで溶かしたなと、主からはある意味畏怖の視線すら送られた宗三の執念が長谷部をこうさせたのだ。
無条件の好意を信じる。長谷部にとってこれがどんなに難しいことか、長谷部を少しでも知っているものにはわかると思う。
しばらくドヤ顔の長谷部を前に俯いて震えていた宗三だったが、しばらくして落ち着いたか震えを止めて顔を上げる。その顔はいつもの掴みどころのない微笑みだったが、若干目尻が垂れ下がっていたような気がしないでもない。
「そうですね、一番かわいいのはあなたですよ。ほら」
一旦うさぎのぬいぐるみを膝の上からどかして、腕を広げる。長谷部は当たり前のような顔でその腕の中に収まって、宗三を背もたれのようにして寄りかかる。その長谷部の腿の上にぬいぐるみを乗せて、宗三は長谷部ごとぬいぐるみを抱きしめた。
二口の身長差があまりない。むしろ体格としては長谷部のほうがいいくらいなのだが、肩幅の差がそれほどないおかげでどうにか腕は回っている。長谷部はのけぞって宗三の首筋にじゃれつきながら、上機嫌で笑っていた。
「ここは俺の定位置だろ。誰にも渡さん」
「はいはい、すみませんね。一番はあなたですよ。この場所もあなたのものですから、そんなに可愛いことしないで下さいな」
どうしてやればいいのかわからなくなる。
そんなことを言いながらも、宗三の顔は満足げだった。
そんな綿切れより俺のほうがかわいい
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