二月までの腐れ縁、三月からの恋人

 高校の屋上で二人、フェンスにもたれかかって校庭をなんとなしに眺める。
「これでお前との腐れ縁も終わりか」
 卒業式も終わり、友人との最後の学校生活を惜しんでバカ騒ぎをする生徒を並んで見下ろしながら、長谷部が呟く。
 家が近いという単純な理由で、幼稚園から中学校までずっと長谷部と重なってきた時間は、進学先が分かれたことで今終わろうとしていた。長谷部には、そのことを憂う様子も、逆に喜ぶ様子も見えない。
「別に高校が分かれたからといって、引っ越すわけでもあるまいし。終わりって言い方はないでしょう」
「だが、理由をつけないと、これからはなかなか会えないぞ」
 自分の行く学校は偏差値もそこそこの、自由な学風が売りのゆるい高校だが、長谷部の進学先はガチガチの進学校だった。あちらでは授業の後も補講やゼミがあると聞く。放課後に時間を合わせるのも、もしかしたら難しくなるのかもしれない。
 けれど、自分は長谷部との付き合いを、ここで終わりにするつもりは毛頭なかった。
「なら、理由をつくればいいじゃないですか」
「今さらすぎてな……わざわざ都合を合わせて会おうとするのも、なんだか変な感じじゃないか?」
 今までは、わざわざ連絡など取りあわなくても、学校で顔を合わせればそれで済む話だった。だから、一応ラインの登録はお互いしているけれども、そういう用途ではあまり活用されていない。せいぜい、変なスタンプや写真や動画を送りあったりする程度だった。
「それは、腐れ縁だからでしょう。なら、関係をちょっと変えてみません?」
「関係を変える?」
 不思議そうな顔をして、長谷部がこちらを振り向く。きょとん、と小首をかしげて見つめてくるその顔を、かわいらしいと思い始めたのはいつ頃からだっただろう。
 逃げられないように両頬を手で押さえて、その無防備な顔にキスをした。
「――!」
「ほら、こういう風に」
 軽く突き飛ばされるように押しのけられる。長谷部のその顔は、熟れたりんごのように真っ赤になっていた。
「なっ……どういうつもりだ!」
「どういうって、どういうもこういうもあります? 僕は冗談でこういうことするタイプじゃないの、わかっているでしょう」
 何か言いたそうに口をぱくぱくとさせているが、言葉にならないようでその口からは何の音も出てこない。その反応で、長谷部もまんざらでもないのだと確信が持てて、ニヤけそうになる口元を必死で引き締めた。
「恋人なら、ちゃんと時間を合わせて、待ち合わせして、デートをしても、おかしくないでしょう?」
「こいびと」
 ようやくその単語だけを口に出せた長谷部は、かわいそうに、いつものはきはきとしたしゃべり方が嘘のように震えた声になっていた。
「ねえ、今告白されてるんですよ、わかります? 答えはいただけないんですか?」
「……急に、そんな、むりだ」
「無理じゃないでしょう、ねえ。聞かせてくださいよ」
 ここは押しどころだと判断して、押して押して押しまくる。長谷部は耐えきれないという風に両手で顔を覆ってしゃがんでしまったが、それでも、掻き消えそうな小声は、ちゃんと僕の耳は拾ってくれていた。
「……これからも、よろしくおねがい、します」
 なんで敬語なんだ、と笑ってしまったのは許してほしい。それから少し後の話になるが、「俺も必死だったんだよ!」と言い張る長谷部もかわいかったことを追記しておく。

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