他愛のない戯れ

 肌にまとわりつくような錯覚をする湿気と、下がりきらない気温のせいで不快指数ばかり上昇する。
 なにも近代日本の蒸し暑い梅雨まで再現しなくとも、とは思うが、そんな陰鬱な季節が好きな変わり者の主を持ってしまった以上仕方ない。
 広間の共用冷蔵庫に入れておいたアイスを部屋に持ち込んで、二口で並んで食べている。二振り部屋なのだから向かい合って座ってもいいものを、今日はそういう気分なのか、宗三は暑い暑いと言いながら長谷部の隣に寄りかかるようにして座っていた。
「暑いなら少しは離れたらどうだ」
「それとこれとは別なので」
 筋肉量の差か、長谷部のほうが宗三より体温が高い。そりゃ余計暑いだろう、俺も正直暑いと宗三をさりげなく押しやろうとする長谷部にわざと抵抗して、宗三はより体重をかけて寄りかかった。
 体を中から冷やしてくれるひんやりとした感覚と、口の中に広がる染みるような甘さに頬が緩む。単に安いから、という理由ばかりでなく、このなんとも言えない安っぽい味が気に入っていた。
 木匙ですくってまた一口。咥えたところで、じっと刺さる視線に気がついた。
「……なんだ」
「それ、一口くださいよ」
 ほら、僕もあげますからと、問答無用でプラスチックのスプーンが口に突っ込まれる。同じような冷たさと、自分の食べているものとは違う滑らかで口溶けの良い、上品な甘さが舌の上に広がる。
 スプーンが引き抜かれ、何をすると反駁しようとしたその口を、開き切る前に唇で塞がれる。せっかく冷えた口の中が、生暖かい舌にかき混ぜられて、あっという間に熱が上がった。
「……ぅ、あ」
 舌を入れるようなキスすら、戯れの一環だと流せるくらいには、付き合いは長い。特に拒む理由もなかったので、一旦離されそうになる唇を追いかけて追い綴った。
 自分とは違う薄い唇、自分とは違う厚みの薄い舌、つるりとなぞる歯は若干尖っているような。どこもかしこも作りの繊細な奴だな、と頭の隅で思いながら、自然と相手の首に回っていた腕から力が抜ける。
 ぺろりと最後に唇を舐められて、ようやく離れたときには、若干息が上がっていた。せっかく下がっていた体温も、きっと熱くなっているだろう。相手の澄ました涼しい顔が若干憎らしい。
 つ、とこちらの唇を、指でなぞられる。
「もう、アイスが溶けちゃいますよ。溶ける前に一口下さいな」
「……先に仕掛けたのはお前だろうが」
 だが実際問題、氷菓が溶けるほうが問題だ。あらためて木匙で掬うと、先ほどより抵抗の少ない柔らかい感触になっていて少しだけ焦った。
 木匙にすくった黄白色のアイスを、あ、と口を開けておとなしくしている宗三の口に入れる。ゆっくりと引き抜けば、上に乗った塊はなくなっていた。
「まあ、たまには、こういう味も悪くないんじゃないですか」
 そう一言評価すると、宗三はさっさと自分の分のアイスを食べ始めた。先ほどまでちまちまと食べていたくせに、今は味わう暇もなく口に運んでいる。
 なんとなくつられる形で自分も食べるペースを速めると、またアイスで冷えた唇が、いきなり耳たぶを食んだ。
「まだ風呂まで時間ありますよね。一汗かきません?」
「……そうだな」
 口の中に掻き込んだ氷菓は、期待で上がった熱を冷ましてくれることはなかった。

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