うう、と喉奥から呻く自分の声で目が覚めた。お世辞にも気分はいいとは言えない。ふと掻き消えるように中身は忘れてしまったが、良くない夢を見た気がする。頭が重い。
またそういう日に限って、外気も妙に寒い。外ではもう桜が咲いているというのに、まるで冬の寒さが戻ってきたかのようだ。温かな布団の中に冷たい空気が入り込まないように、布団の中に潜り込んで身体を小さく縮める。この時ばかりは、縦ばかり伸びているこの背丈が恨めしい。
布団の綿越しに、鈍くとたとたと渡りを歩く足音が聞こえる。部屋の前で止まったと思うと、がらりと戸が開けられる音がした。より一層冷えた空気が流れ込んで、ぶるりと体が震える。
「……起きてこないと思ったら。何やってるんだ、お前は」
顔を見なくてもわかる、長谷部の呆れた声がこちらにかけられる。長谷部とは同室だが、向こうはさっさと布団を仕舞って日課の行水にでも行ってきたのだろう。眠気など欠片もないはきはきとした声だった。
のし、のしとこちらに近づいてくる足音に嫌な予感がして、掛け布団をひっしと握りしめる。はたして予感は当たり、長谷部はこちらの布団をはぎ取ろうとして、布団の引っ張り合いになった。
「こら、抵抗するな! 起きろ!」
「嫌です寒いです体が温まるまで寝かせてください」
「体を動かせば否が応でも温まるだろ! 起きろ!」
ぐい、と布団を捲り上げる長谷部に対して、あえて布団から手を離す。意表を突かれてよろめいた長谷部を、布団ごと引っ張りこんだ。
「こら、お前、何を」
「冷た! 動けば温まるなんて嘘おっしゃい、貴方ものすごく冷たいじゃないですか」
長谷部の冷たい体を、抱き枕代わりにぎゅうぎゅうに抱きしめる。長谷部は落ち着かなくもぞもぞしていたが、全身に抱きつかれ動けないとなると、諦めたのかため息をひとつ落としてこちらを抱き返した。
「ここ最近は開花するほど暖かくなっていたんだがな。花冷えというやつか」
抱きしめた長谷部の横顔、左の首筋あたりに、ひとひらの桜の花弁を見つける。ふと悪戯心をおこして、それを唇で啄んだ。ひく、と長谷部の体が一瞬だけ硬直して、ゆるむ。
「それで? いつまでこうしているつもりだ? そのうち朝餉を食いっぱぐれるぞ」
「あともう少し、もう少しだけ。まだ寒いので。……貴方が温めてくれるのなら、話は早いんですけど」
それだけ零して、ふ、と笑う。さて、長谷部はどう出るだろう。
あくまでそっけなく突っぱねられるのか、それとも。
期待を込めてじっとしていると、絡みついた体が僅かに身動ぎする。薄暗い布団の中で、淡藤色の目と目が合う。ぴったりと体をくっつけあったまま、そのまま唇までくっつけあった。
唇だけ合わせるに飽き足らず、当然のように舌を絡ませ合う。興奮と酸欠で上がった息、欲望のままにごりっと緩く勃ち起がり始めたそこを押し付ければお返しのように胸板を押し付けられた。
なし崩しにしてしまおうと長谷部の服に手を掛けようとした瞬間、合わせていた唇が離される。怪訝に思う暇もなく、油断した隙に一気に布団を剥ぎとられた。
「さ、寒い!!」
「もう十分体は温まったようだしなぁ? そろそろ起きる時間だ。さっさと着替えろ」
心も体も一気に寒くなって丸く縮こまる僕を見て、長谷部がにやりと笑みを浮かべる。そんな長谷部を、思う存分恨めしさを込めて見つめた。
「ひどい……ひとでなし……流されてくれてもいいじゃないですか」
「人じゃないからな」
「そんなベタな話はしてません」
からから笑う長谷部は、取り上げた布団を畳んでいる。その様子を見て、仕方なく僕も体を起こした。
花冷えの日に春を抱き込む
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