門出を見送り、帰還を待つ

 長谷部は旅装束に着替え、旅道具を背負い、白紙の手紙一式を懐に携える。傘をしっかりと被り直せば、まさしく修行に旅立たんとする刀剣男士の姿であった。
 練度も上限を迎え、道具もようやく手に入った。長谷部という戦力が抜けても問題ないくらいに他の刀も育っている。ようやく条件が揃っての、長谷部の修行許可が出たのだった。
「少し寂しくなりますね。三日も貴方がいないなんて」
 長谷部の支度を見守っていた同室の宗三が、その様子を見て声を掛ける。
 本丸の創成期からの付き合いのこの打刀二口は、少ない刀で苦労して今の本丸を作り上げた功労者だ。互いに助け合い足りない部分を補い合い、いつしか自然と親密な仲へとなっていった。
「なに、そちらではたったの三日だ。戦場を駆けていれば三日なんてすぐに過ぎるさ」
「そういうことじゃないんですよ、お馬鹿さん」
 宗三はゆっくりと長谷部に近づいて、頬に手を当てる。自然な流れでそのままお互いの顔が近づき、唇が触れた。
 別れを惜しむように、何回も、何回も羽の触れるようなキスを繰り返す。次第に熱が篭り始め、唇同士が触れるだけの可愛らしいキスから唇同士を押し付けるように、それに飽き足らず相手の息を奪うような深い口づけに変わっていったところで、長谷部が軽く宗三の胸を叩く。
「そう、ざ。これ以上は」
「……だめですか? どうして?」
 唇を離したとはいえ、未だ鼻先が触れるほど顔を近づけたまま、二口は見つめ合う。
「……我慢できなくなるだろ」
 僅かに潤んだ瞳でそう返す長谷部に、ニッコリと宗三は笑って、長谷部の頬に当てていた手を離した。
「ならしょうがないですね。これ以上貴方を引き止めるわけにもいきませんし」
 長谷部は唇を腕でぐいと拭って、誤魔化すように傘を被り直す。
「じゃあ、行ってくる」
「ええ、達者で」
 踵を返し、部屋の戸に手をかけて、一歩外に踏み出してから、名残惜しむように長谷部が振り返る。少し眉を下げた、残念そうな顔で。
「なあ、本当に表まで見送りには来ないのか」
「ええ、ここでお見送りします」
 そんな長谷部を、表情を緩めて見つめる宗三の声はやさしい。やさしいが、どこか煮詰まったようなどろっとした甘さも含んでいた。
「いざゲートをくぐる時になってしまうと、思わず引き止めてしまいそうなので」
 その宗三の言葉に、長谷部は意表を突かれた顔をして、照れを誤魔化すように顔を斜めに背けた。
「馬鹿。……すぐ帰ってくる。それまで待っててくれ」
「ええ。お待ちしていますよ。修行を終えて、より強く洗練された貴方を」
 長谷部が背けた顔を元に戻す。お互いに、名残惜しさを含んだ視線が交差する。しかし、すぐにそれは掻き消えた。
「留守の間、本丸を頼んだ」
「任されましょう。貴方はただ、成すべきことを」
 次に真剣な表情で交わされたのは、同じ主に仕える刀としての言葉だった。

0