うちの本丸の長谷部と宗三は付き合っているらしい。
らしいというか、ある日突然当人たちに報告されたのだ。あれは殴り込みと言っていい勢いだった。
新しい催しで手に入った修行道具で、さて誰を修行に出すかと近侍の鳴狐と膝を突き合わせて考えていた。爽やかな秋晴れの日だった。なにやら慌てたような声と抑える気が感じられない足音が聞こえてきて、さてなんの騒ぎかとふたりで顔を上げた途端、ぴしゃっと障子を跳ね飛ばす勢いで開けられたのだ。
「主、僕はこれと付き合い始めましたから」
「ちょっ、おま、宗三!!!! やめろと言っているだろうが!!!」
開いた障子から現れた、仁王立ちして自分にしがみつく長谷部を指差して宣言する宗三と、顔を真っ赤にして宗三にかじりつく長谷部を目の当たりにして、あまりの唐突さになにも言葉が出てこなかった。
これが、以前から二振りがいい雰囲気で、想い合っていそうな気配がしていたならまだ理解もできた(それでもいきなり殴り込みかけられる理由がわからないが)。だが、そんな気配は微塵もなかったし脈略がなさすぎる。
「……えっ? な、何?」
「お付き合いの報告です。これが主の知らぬところで勝手な真似はできないと強情なので、筋を通しにきました」
「今すぐその口を閉じろ! わざわざ主の御前を騒がせるようなことでは」
「これの主はあなた。それは認めます。その代わり、これの自由意志は僕にくれませんか。大事にしますから」
「宗三!!!!!」
とっさに思ったのは、なんの冗談だ、だった。だがしかし気持ちいいほど男らしく宣言する宗三の顔は真剣そのものだし、もはや半泣きになっている長谷部は、怒りではなく明らかに恥ずかしさで真っ赤になっている。
「……えーと、つまりこれって逆プロポーズ? 息子さんを私に下さいってこと?」
「正しくご両親へのごあいさつです。娘さんを僕に下さい」
「ぼくこんなデカい娘持ったつもりはないなあ……ていうか長谷部が嫁なの……」
「まあそのあたりはどっちでもいいです。それで、くれるんですか? くれないんですか?」
「あげないって言ったら、謀反しそうな顔で言わないでよ」
真剣が過ぎて目が据わってきた宗三のオッドアイを見つめ返して、ため息をつく。
「いーよ、別に。責任者として人間関係の把握はしておきたいから報告しに来てくれたのはありがたいけど、心情的にはそんなもん自由にしてくれてかまわないからね。修羅場が起こらなければなんでもいーよ」
「人間はあなただけですけど」
「揚げ足をとらない」
唐突すぎて驚きはしたが、それだけといえばそれだけだ。痴情の縺れで刃傷沙汰とか洒落にならない事態が起こるのでなければ、好いた惚れたなど勝手にやればいい。人間である自分は、彼らに主として、持ち物としての幸せを与えることはできても、『ヒト』としての幸せはどうしたって与えてやれない。捨てられる置いていかれることにトラウマを持つ長谷部に、同じくらいの寿命を持つ同類が寄り添うというのならこれ以上喜ばしいことはない。魔王の影に囚われ続ける宗三に、同じく魔王の影響下にいながら前へ進めた長谷部が寄り添うというのなら。
自分の刀たちが幸せになるというのに、何を否定することなどあろうものか。
「自由にしてくれていいから、幸せにしてあげなさい。幸せになりなさい」
ありったけの愛情をこめて、こちらを見るいとしごに微笑みかけた。
そんなこんなで、長谷部と宗三は付き合っているらしい。あれから破局したという話は聞かないからまだ付き合っているはずだ。
……どうしてこんなにあやふやな言い方をするのかというと、正直な話、あの二振りが付き合っているようにはとうてい見えないからだ。
確かに仲が悪いようには見えない。いつの間にか宗三は長谷部と同室の不動と部屋を交換したようで、同じ部屋で生活し始めたのだからむしろ順調なのだろう。だが、見ている範囲ではまったく変わったところがないのだ。
ぽんぽん交わす会話は相変わらず皮肉と毒舌の効いた言葉の応酬で、スキンシップが増えたようにも見えない。
あの日のことはタチの悪い悪戯だったのか?とすら思い始めていたころに、それに気づいた。