福島に希望を伝えて、花屋を巡っていたら、すっかり日は傾き夕暮れ時になってしまった。福島とは途中で別れて戻ってきたが、一振りで歩いている最中、弱気が顔を出してくる。そもそも長谷部は恐らく、お返しなんて期待していないだろう。あれはそういう性質だ。それに対して花でも贈ろうなんて重すぎやしないか。いや自分が重たいことは常々自覚はしているが。
そもそもプリザーブドフラワーだから枯れるようなものではないとはいえ、好みかどうかもわからない贈り物を邪魔に思いはしないだろうか。なんだかんだ情が深いあの子はひとから貰ったものを捨てたりはしないだろうが、その分持て余したりはしないだろうか。こんなもの、僕の独りよがりなんじゃないか。
いけない、らしくない。こんな後ろ向きな考えばかり。負の感情を振り払うようにかぶりを振る。
この時間なら流石に内務の仕事も終えて部屋にいるはず。そうっと、共通の部屋の戸を開けた。
戸の開いた音で気づいたか、それともその前から足音で気づいていたか。長谷部が顔を上げてこちらを見ていた。
「何だ、お前が一振りで外出なんて珍しいな。どこ行ってたんだ?」
「いえ、まあ、ちょっと」
後ろ手に隠したフラワーボックスは見えていないようで、ほっとする。そのまま相手には見えないようにそっと部屋の中まで入って、長谷部の前に立つ。長谷部は不思議そうに、きょとんとしたあどけない顔でこちらを見上げた。
「バレンタインに、貰いっぱなしというのも何ですし。お返しですよ」
そう言って、隠していたフラワーボックスを差し出す。
金魚鉢のようなガラスの容器に、赤のバラと紫のカーネーションをベースに置いて、ホワイトレースフラワーで飾り立てる。愛情と、幸福と、感謝やその心の繊細さを祈るもの。自分だって知らなかった花言葉を、長谷部が知っているとは到底思えないが、赤の薔薇が愛情であることくらいは知っているだろう。
差し出された長谷部は、目を見開いて固まる。驚きすぎて声も出ないといったように口が半開きになって、ぁ、と声にならない声が漏れていた。
「……これを、お前が?」
「ええ。……迷惑でしたか? それとも、足りませんか?」
「そんなわけ、そんなわけないだろ。……ありがとう」
微かに震える手で、長谷部はこちらが差し出す鉢を受け取る。手の中に収まった色とりどりの花の匂いを嗅ぐようにすっと鼻から息を吸って、深く口から息を吐き出した。
「なんというか……お前がここまで気障なことをやるとは思わなかった」
「気障って何ですか。……いえ、ちょっと自分でも思いましたけど。でも、手作りのものには、それ相応の気持ちを返したいでしょう」
つるりとしたガラスの表面を、穏やかな顔をして撫でながら、長谷部が言う。
「大事にする、ありがとう。さて、どこに飾るかな」
いっそ刀掛けの前にでも飾るか、と言い出した長谷部に、そんなとこに置いたら邪魔になりますよと笑い返した。
ちょっぴり気障なホワイトデー - 2/2
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