花を吐くより砂を吐きてえ - 1/3

 それは突然だった。
 特に体調が悪かったわけでもない、酒を飲んでいたわけでもない、それなのに急な吐き気に襲われて、口に手を当てる。
 そのまま少しだけ嘔吐くと、なにか手のひらに柔らかい感触を感じて、疑問に思って掌の上にあるものを確認する。
 それは、ひとひらの桜の花びらだった。わけがわからない。
 誉桜では決してない。あれは舞い散りはするものの、実体を残さず積もらず消えてしまうものだ。かといって、何かの拍子に紛れ込んだものとも考えにくい。だって今の季節は初夏のはじめ、とっくに桜など散っている。
 どう考えても『自分が花びらを吐いた』としか考えられなくて、そんなことあるか?と思った俺はすぐに端末から検索をかけた。そしてすぐに出てきた『嘔吐中枢花被性疾患』の文字。

 曰く、片想いを拗らせると口から花を吐くようになる奇病。
 曰く、治療法は見つかっていない。しかし、両想いになると白銀の百合を吐いて完治する。
 曰く、一年以内に完治することができないと命を落とす。

 片想いを拗らせる、とやらに心当たりがありすぎて、その後も口からひらひらと桜の花びらを吐き出すにあたって、完全に俺はこの疾患にかかってしまったのだと自覚した。
 あくまで人間が罹った場合の話が大半だが、まれに刀剣男士にも感染する事例もあるらしい。その場合でも、一年以内に完治しなければ折れてしまうという。
 これらの情報を得て、俺は折れるまでこの疾患を隠すことに決めた。
 両想いになれば完治するとあるが、なれなければ折れるのだ。正直、それならば告白してみようだなんて思えるくらいなら、最初から片想いなど拗らせていない。
 告白して、玉砕して、俺が結果として折れた後、自分が振ったから俺が折れたのだとあいつに罪悪感を抱かせるくらいなら、最初から黙して語らず秘めたまま折れたほうがマシだ。
 そう決めて、木の葉が茂り、陽の光が大地を焼き、落ち葉で地面が埋まり、雪がしんしんと降り積もり、また桜の盛りを迎える頃。吐く頻度も量も時間が経つにつれ増えていって、とうとう誤魔化しきれずに他の刀剣達の前で吐き、通称花吐き病のことを知っていた主に自室療養を命じられたのが今日のことだった。
 ちなみに、どうやら吐いた花から他者に感染もするらしいが、刀剣男士のものは感染らないとのことだったので、少し安心した。

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