花を吐くより砂を吐きてえ - 3/3

おまけ︰部屋に来るまでの薬研くんと宗三さん

「薬研」
 主命で長谷部の部屋へと向かおうとする薬研の背中に、強張った声がかかる。
 その聞き覚えのある、ありすぎる声の持ち主の、余裕の伺えない声色に、薬研は内心げんなりしながら振り返った。
「よお、宗三。なんか用かい」
「用もなにも。わかっているくせに」
 つかつかと、その長い足を活かしてあっという間に薬研に並んだ宗三は、相変わらず硬い声のまま喋った。
「長谷部が花吐き病ですって? 花吐き病? あの子が? 誰に? 誰なんですその果報者は」
「……そりゃ、長谷部自身しか知らんことだろうよ」
 薬研は淡々とそう告げたが、実のところ、長谷部が吐いた花を見てなんとなく予想はついていた。だからこそ、なんともいえない脱力感に襲われる。宗三がこのまま長谷部の部屋までついてくるつもりなら、俺っちは帰ってもいいんじゃねえかなぁ。そう思うくらいには。
「ねえ、僕はこの気持ちのやり場をどうすればいいんですか。あの子が折れるなんてあってはなりませんけど、それはそれとしてあの子が誰かとくっつくなんて、一瞬たりとも見たくないんですよ。くっついたあとで破局させれば、命に別状はありませんよね?」
「問題ねえと思うが、それより確実なのは、あんたがさっさと長谷部を口説いちまうことなんじゃねえのか」
「……それができれば苦労しませんよ」
「やったことねえじゃねえか、あんた」
 正直なところ、本当にそれが一番の最適解であるので、宗三にはさっさと根性見せて長谷部を口説いてもらいたいものなのだ。もしくは、長谷部が素直に片想いの相手の名前を吐くか。ホントに俺っち部屋に行く意味がねえ。
 しかしなんで気づかないかね、こいつ。隣を歩く宗三の顔を見上げて、思う。
 長谷部が、片想いの相手を思って桜を吐く。俺たち織田に属していた刀にとって、身内で桜といって連想するのは、どう考えても宗三のことなのだ。
 純粋に見た目のこともある。だが、それ以上に宗三には、桜を重ねて見てしまう。
 信長さんが大きく歴史の表舞台に名を残すことになった、桶狭間の戦い。その戦利品として、勝利の象徴として、この世の春を表す桜。
 海道一の弓取りとも言われた今川義元が、その命を討ち取られた象徴。儚く散る、栄枯盛衰を表す桜。
 ……まあたぶん、自分がどう見られてるかなんて、自分ではわからないものなのだろう。つい出そうになるため息を押し殺して、前を向く。
「大体、いつも俺らに惚気けるばかりで、なんで本刃には甘い言葉の一つもかけてやらないんだ。そんなんだから一向に進展しないんだろ」
「だって、それは……その……いきなり『貴方は可愛いですね』って話しかけて『は?』って心底わけのわからないものを見る目で見られたら、心挫けちゃうじゃないですか」
「俺や不動があんたのこと、心底わけのわからないものを見る目で見てるのは認識してるのな、あんた。認識してる上で惚気をやめねえ太い神経しておいて、なんでそこで繊細になるんだよ。そこも図太く生きろや」
「惚れた相手には臆病になるものなんですよ、ひとってのは!」
 ただただ純粋に薬研は思った。めんどくせえ。
 もうとにかく面倒くさいので、この機会にちゃんとくっついてほしい。晴れて(第三者には)両想いが確認できたので。
「わかったわかった。とりあえず、今回は長谷部の花吐き病を治すのが先決だ。告白する気のなさそうな長谷部を絆して、告白させる。いいな」
「……ちっともよくはありませんが、ええ、いいですよ。それがあの子の為なら、橋渡しだってしてやりますよ。後で絶対壊しに行きますけど」
「壊しに行くと宣言するだけの行動力があって、なんで長谷部本刃には口説きにいけないんだ?」
「そりゃ、振られるのが怖いからですよ当たり前じゃないですか」
「お前さんの神経、やっぱり太いのか細いのかわからんな」
 あんまりな宗三の答えに肩をすくめて、とうに辿り着いていた長谷部の部屋の襖に手を掛けた。

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