こちら政府末端便利屋本舗 - 3/5

 予想通りというか、元監査官個体だった山姥切長義はすんなりと政府管轄へと移籍した。半ば強引に引っ張られる形の南泉と共に。……誰とは言わんがデジャヴを感じたのをおくびにも出さず、移籍先である放棄世界管理課へと引き渡す。長義にとっては古巣だろう、実に楽しそうに南泉を引っ張って、案内係より先行して立ち去っていった。
 特別大変なことをやったわけではないが、一息ついて首を回す。首を傾けた瞬間、眼力だけで飛ぶ鳥を落とせそうな力強い灰色の瞳と目がカチ合い体が固まった。
 その眼の持ち主は、大足でぐんぐんこちらへ近づいてくる。存在そのものが圧倒的な大男は、しかし男前な美人と言って差し支えないほど美しい顔のせいで恐怖感を与えない。
 そのまま、こちらから二歩の距離を開けて立ち止まる。
「貴様が先日の宗三左文字とへし切長谷部の主なのだろう? 世話になった」
「あ、あああの本丸の……いや俺は裏方で事務仕事やってただけですし。礼なら直接あの二口に伝えてもらえれば」
「だが寄越したのは貴様だろう。礼を言う」
 ぴしっとした直立から、軽く頭を下げられる。誤解されがちだが、大包平というのは傲岸なのではなく馬鹿真面目なだけなんだよなあと、こういう機会があるたびしみじみ思うのだ。
「そこまで言うなら受け取っておきます。あなたは確か移籍組でしたね」
「ああ。まだ天下五剣どもとの決着もついていない。主は……主とするには残念な男だったが、将となるものが全て人間ができているわけでもないからな。次はよき将であるといいが」
「あなたほどの刀剣なれば、審神者の方から呼ぶ手数多ですよ。今後の活躍を期待しています」
「うむ。して、新しい本丸とのマッチングとやらはいつ始まるんだ?」
「あ、ああ〜……それは……宗三次第なので……早めにするよう伝えときます」
「頼んだぞ。仮処分ゆえの無所属の身とあって、鍛錬すらもできんとはな」
 大包平はひとつ頷くと、用は済んだとばかりに踵を返そうとして……体半分だけ振り返る。
「これは礼代わりの娑婆心なんだがな」
「はい?」
「へし切長谷部にはもう少し自覚させたほうがいいぞ」
 それだけ言い切って、もうすたすたと廊下の奥の方へ歩いていく。言葉の意味がわからずぼうっとしている間に、とっくに黒い洋装がひらりと角へと消えてしまっていた。
「……えっ!? ちょっと待って何?! 何の話?!」

 

 もやもやした気分のままで事務所まで戻ると、相変わらずやる気なさげにキーボードを叩く宗三だけがいた。さすがに指一本はやめたらしく、真面目にデータを入力している。その隣にどっこいしょと座り込んで思いっきり伸びをした。いいやつだとわかっていても、目の前にする刀剣の横綱の圧はすごい。
 長谷部の自覚なあ、と、横目で宗三を盗み見しながら考える。宗三が長谷部を気に入ってるのはわかりきってることだが、長谷部はどう思ってるのかそこまで深く考えたことはなかった。
 俺はあいつの主ではない。であるからして、へし切長谷部特有の主に対する盲目さや献身さを肌で感じたことがないのだ。あくまで目上の上司に対する丁寧さといった感じで、うっすら距離すら感じる気がする。悲しい。
 まあ俺の悲しみは置いておくにしても、長谷部のことは宗三にまかせきりで、俺自身が長谷部のことをそれほど把握していないことについて、ようやく気がついたのだ。
「宗三、俺これちょっと纏めたら長谷部んとこ様子見に行ってくるから」
「えっ、ちょっと待って下さいよまだ僕全然終わってない」
「それはお前がサボってるからだし、お前と一緒に行くとは一言も言ってない」
 宗三が慌ててタイピング速度を上げ始めたが、そもそも移籍組は移籍先となる本丸のピックアップ作業もあいまって作業量が多い。キリのいいところで切り上げようとしても、それなりの時間がかかるはずだった。
 無理やり引き止められる前に、例の本丸の在席刀帳と、刀解希望名簿をひっつかんで立ち上がる。恨みがましい視線を後頭部に感じながら、鍛刀場へと向かった。

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