長谷部が几帳面に結果を記述してくれていたおかげで、特にリテイクなしでそのまま書類は受理された。さてまだ仕事が残っている。事務室へと戻れば、不機嫌さ丸出しのままの宗三がパソコンと睨み合っていて早くも回れ右したくなった。
「一応聞くけどさあ……どしたのその顔」
「別に? それより随分遅かったじゃないですか、たかが様子見で。おまけに長谷部はどこ行ったんです?」
「あいつは一通り終わったから休憩中」
「ならなんでここに戻ってこないんですか」
「長谷部がどこで休憩取ろうが長谷部の勝手だろ……」
隣に座るときにちらと宗三の画面を見たが、今日の分はほぼほぼ終わったようだった。本気出せば仕事早いんだけどな、こいつ。
さて俺も明日の分を少し片付けておくかとファイルを開いたところで、ギイとドアの開く音がしてそちらを見る。そこには先程ひどく動揺していたとは思えないほどすました顔した長谷部が立っていた。
「ただいま戻りました」
「おー、おかえり。……もう大丈夫なのか?」
「ご心配をおかけして申し訳ありません。もうなんともありませんよ」
「遅かったじゃないですか、しかも一人で休憩してきて」
「仕事は終わらせたんだからいいだろ」
ぶうぶう口を尖らせる宗三とのやりとりも一見いつもと変わらない。もしやさっきのあれは錯覚だったのかと思うくらいに変わらない態度に、むしろこっちが戸惑った。
まあ変わりないならいっか……と思って、開いたファイルの編集に入る。しばらく三者三様のカタカタといった音が響いたが、一足先に切り上げた宗三がパソコンの電源を落とした。
「はあもう疲れましたよ。今日はもう切り上げます」
「そうか、お疲れ」
一旦画面から目を離して、立ち上がった宗三に対して手を振る。宗三がこちらに手を振り返して部屋を出ていく直前に、長谷部が気まずげに呟いた。
「……今日は俺は仮眠室で寝るからな」
「はぁ?!」
俺が反応するよりも早く、宗三が長谷部を振り向く。長谷部はバツが悪そうに顔をそらしたまま動かない。
「なんでまた。今日は仕事も詰まってないでしょう」
「そういう気分なんだ」
「気分って。仮眠室じゃ疲れも取れないでしょうに」
「とにかく今日は部屋に戻らないからな、絶対に戻らないからな」
前言撤回。めちゃくちゃ意識しとるがな。なお長谷部と宗三は同室である。
なおも言い募る宗三だったが、がんとして長谷部が譲らないので結局は部屋に戻らず仮眠室で寝ることになったようだった。
しかし長谷部、一日二日はいいとして、それ以降はどうするつもりなんだか……
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