「お前は、情が深い刀だから」 - 4/5

 結果として、『相性はよかった』と言っておこう。
 そもそも向こうが抱かれたがって、無理やり煽ってきたという関係上、あえて少し乱暴に扱ってやった。けれど、そんな扱いをされても嫌がるどころか喜んで受け入れるその姿に、逆に絆されそうになってしまってあわてて態度を改めた。結果、ほぼ真っ当な交わりになってしまい、お互い満足できてしまったのもよくなかった。
 性欲なのか純粋に苛つきなのかわからない衝動に任せて、手酷く扱って嫌われてしまおうと思っていたのに、あんまりにも従順に従うから、酷く扱いきれなかった。しまいには同じ布団で朝まで寝てしまう始末で、これでは逆にこちらが情を移してしまいかねない。
 これだから、寝るのは嫌だったのだ。
 体温を肌で感じれば、どうしたってそれなりに情は湧くし、体を開くそこそこ気持ちいい行為をすれば、心だって開いてしまう。
 自分の中の倫理観が、長谷部に対する感情が、どうしようもなく変質していく。
 現に、今では長谷部のことを、以前ほど拒めなくなっている。なぜ僕を、という不審感や、長谷部自身に対する如何わしさは残っているが、以前ほどの拒絶感はなくなっている。それこそ、誘われたらその気になってしまうくらいには。

 

 あれから数日後、二度目のお誘いがきた。『一度も二度も同じだろ』という言葉で。それを否定できなかったし、誘われた瞬間脳裏に描き出された、閨の中での長谷部の表情、痴態、そしていとけなさに抱いた自分の劣情、そんなものを思い出してしまって、断ろうとした言葉は口の中で溶けて消えてしまった。
 なにより、誘いに来るその表情に、可愛げを見出してしまったのがよくない。
 大体なんで長谷部にばかり振り回されなきゃならないんだと、魔が差したのも悪かった。一度自分から誘ってしまえば、あとはもうずるずると、どちらからともなく誘う夜が増える。
 こんな状況、とても兄様や弟達の耳には入れられないなと、心のうちでひっそり首を振った。

 

 最初に長谷部は「口説かれてくれ」「靡いてくれ」と言っていたのに、いざ体を繋げても、変に舞い上がったり勘違いしたりはしなかった。
 何だかんだずるずると関係するような今の状態になってさえ、必ず一夜に一度は「好きになってくれないか?」と聞いてくる。その度に「体だけは好きですね」と返す自分が、本当にひどい男のような気がしてきて、罪悪感を感じるたびに『そもそもこれは全部長谷部が仕組んだことなのだ』とそれを打ち消す。実際そうなのだ、自分は流されただけ。
 ……それでも完全に罪悪感を消せないのは、体を重ねるたびに情が湧いてしまっているのを自覚しているからだ。毎回そんなことを聞いてくる長谷部に、頷いてやりたい気持ちは日に日に大きくなってくる。
 それでも頷きたくないのは、もはや単なる意地に近い。所詮体を合わせた錯覚なのだと、単に肉欲と恋情の区別がつかなくなっているだけなのだと言われても否定できないと、そう思っているのもある。

 だから、自分はあえて「あくまでこれは体だけの関係だ」という立場を崩さない。その意を長谷部はちゃんと組んできて、事後の気だるい空気の中、二口で向かい合って横になっていても、こちらに指を伸ばしてあちこちをくすぐるようなささやかなちょっかいは出してはくるが、抱きついたりキスしたりなどの本格的なスキンシップはしてこない。あれだけ強引に関係を求めてきた割に、変なところで謙虚だな、と思う。
 そういう、変に謙虚な部分を出されると、こちらが逆に絆されそうになる。かわいいな、と思ってしまう。いっそいつものように強引に、じゃれついて欲しかった。そうしてくれたなら、安心して突き放すことができるのに。

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